サックスという楽器は、かなり複雑なメカニズムを持っています。一般的なアルトサックスで約600点の部品から構成されています。その膨大な数の部品が、ひとつひとつ各々の役割を果たし、私たちサックス奏者の演奏をサポートしてくれています。サックスを細かく解剖し、それぞれの部品の役割を探ってみましょう。今回のテーマは「指貝」です。
サックスのキー上の、指に触れる金属でない丸い部分にはめ込まれた部品を、「指貝」といいます。指貝がどのキーに付いているかは、メーカーやモデルによっても異なりますが、通常は左手のB、B♭、A、Gキー、右手のF、E、D、F♯キーに付いています。フロントFキーや、テーブルキーのG♯に指貝が付いている機種もあります。
このパーツは主に貝で作られていることから、この名前がついています。「しがい」と読まれがちですが、正しい読み方は「ゆびがい」です。キーの指の先端が触れる部分に、白蝶貝等の適度な滑りと強度を持った部材をはめ込み、キーの操作感を向上させているパーツです。
白蝶貝は、汗などで指先(ゆびさき)が湿った状態でも滑りずらく、予期せぬ操作ミスを防いでくれます。また光沢と模様の美しさ、強度から、時計やアクセサリーなどにもよく使用されており、他の楽器では、金管楽器のピストン上部やギターのインレイ(ポジションマークなど)などにも使用されています。指貝には白蝶貝の他にも、コストを抑えたプラスチック製や樹脂製、個性派のサックスでは黒っぽいブラックパール(黒蝶貝)等も使用されています。最近では和風な絵柄のデザインが施された、有田焼の指貝も販売されています。
指貝ゆえに素材の話が先行してしまいましたが、その形状が最も重要です。サックス奏者の演奏中、「サックスの操作」のかなりの部分が「指貝」の上でおこなわれるため、奏者の微妙な感覚や要求にフィットしていなければなりません。
指貝を良く観察すると、金属の淵からやや盛り上がっており、その盛り上がりには傾斜が付いています、傾斜の頂点は丸みを帯び、表面は円の中心に向かって均一に窪んでいます。この窪みが指の先端の引っ掛かりを作り、俊敏なキー操作をサポートしてくれます。窪みが無いとキーの中心が分かりにくいので、力を入れるポイントが分かり辛くなります。淵の傾斜は中心からズレた指を正しい位置に導いたり、指の「ズラし、滑らし」の精度を高いものにするサポートです。ここの傾斜がきついと抵抗になり、緩すぎれば滑り過ぎるようになってしまいます。
指貝の詳細な形状が操作感を左右するため、奏者によっては、楽器を変えたときには細かく「自分向け」に調整を依頼する人もいるようです。指貝の窪みをやすりで削り、ほんの少し深くするだけで、指への吸い付きが向上したりもします。
指貝の受け皿は、指貝が動かないようぴったりとしたサイズの窪みとなっており、ヤマハ等の多くのメーカーのものはそこに接着剤で固定、セルマーなどでは受け皿の淵をカシめて(淵を内側に変形させて)固定しています。そのため指貝の交換は、ほとんどの場合既存のものを加熱して、砕いて外さなければなりません。塗装へのダメージも考慮しなければならない、難しい作業です。
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