サックス 本体

セブンの話

ご存知セルマーMark VI、SBA(スーパー・バランスド・アクション)、またCONNの6M、KING Super 20、ビッシャーのAristcrat(アリストクラット)等、所謂「ヴィンテージサックス」は、製造後50年以上経った今でもその人気は褪せることなく、多くのプレイヤーが使用し、また市場では高値で流通しています。
そんなヴィンテージサックスの中で、セルマーのMark VII(マークセブン)は何故かちょっと人気が薄いようです。名器Mark VIの後継機でありながら、妙に影が薄いのは何故でしょうか。今日は「モロボシダン」じゃないほうの「セブン」の話です。

1974年から1980年にかけて8万本ほど作られたSelmer Mark VIIは、超絶な人気を誇ったMark VIの後継機で、Mark Ⅵよりネック吹き込み部分の内径を大きくしたことや、テーブルキー等のキーパーツを大振りにしたりし、Mark Ⅵの艶っぽい音色の特徴に対し、高音域の出しやすさや、音量の増大が計られたパワフルなサウンドが特徴で、当時急速に発展したエレクトリック系楽器との共演を意識したモデルとして誕生しました。
70歳前後のサックスプレーヤーで、新品のアメセル、フラセルのMark VIが楽器屋の店頭に並んでいた当時を知る方々は、Mark VIIの発売の印象をこう語ります。「凄くパワフルなサックスが出たな、と思ったけど、とにかくキーが大振りで、日本人の手には大きすぎる感じだった。なもんで、新発売当初からあまり評判は芳しくなかった気がする。」、と。
当時の日本では、アメセルはフラセルの同等機種の価格に対して、数万円の追加で購入でき、それと同等価格の新生Mark VIIは、パワフルだけど操作し難い、といういまいちの評価だったようです。セルマーの最新技術を駆使し、満を持してリリースされた新モデル、Mark VIIの立ち上がりは、日本のサックス界ではあまり良いものではなかったようです。

セルマーフランスで製造したパーツを、アメリカに輸入してジャズ市場に合わせて組立&調整されたアメセルは、このMark VIIをもって終了しました。Mark VII発売当時の音楽シーンは、アコースティック編成から電子楽器などのエレクトリックな編成が取り入れられ始め、サックスはエレキギター、エレキベース、オルガンなどの大音量編成の中での演奏を強いられることになりました。
セルマー社はその中でも負けない楽器をと管体の重量化を図り、音量の増大とパワフルで明るい音色の楽器の製造を目指しMark VIIをリリースしました。1970年代から80年代に登場したクロスオーバー(後にフュージョンと呼ばれる)のジャンルでは、多くのサックス奏者がMark VIIを採用し、現在に至っても多くのプロ奏者が使用するモデルです。そうなんです、独自の分野では絶大な人気なのです。

ジャズのテナー奏者がアルトの持ち替えをする場合、Mark VIIのアルトを使うケースが少なくないそうです。息の入り方がテナーに似ており、サウンドの作り方や操作感もテナーに近しいものを感じるからだそうです。
フュージョンサックス奏者の多くは、「SA80やSerie IIIより、Mark VIIのほうがパワフル。」、と言います。ヴィンテージサックスというものに、「あの時代の音」を求めているサックス奏者にとっては、Mark VIIはヴィンテージとしての魅力が薄いのです。
木管楽器を、「より頑丈で、大きな音を出せる楽器が欲しい」として、アドルフ・サックスはサックスを発明しました。Mark VIIの誕生はそのニーズに似ています。Mark VIIは新しい時代のサックスの始まりだったのかもしれません。

 

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