「サブトーン」と聞けば、むせび泣くようなジャズテナー、ベン・ウェブスターのバラードのサウンドあたりを思い浮かべる人も多いでしょう。柔らかく、エアリーで、心地良い豊かな響きを持った、テナーサックスの十八番とも言えるサウンドです。「ちょっとエロいぞ」、と言う人もいますよね。
奏法としては上級技術に分類されますが、サックス奏者であれば是非身に付けたい技術です。今回はサブトーンについて考えてみます。
音は様々な周波数の音を含んでおり、基音(その音の高さの周波数)にどのような周波数の音が、どのくらいの強さで含まれているかによって、その音色(おんしょく)が決まります。
管楽器の場合、基音に対して整数倍の周波数の音、「倍音」の含み方で音色が変わるので、豊かな響きを得るために、倍音を沢山含んだ音になるよう奏者は練習し、演奏します。しかしサブトーンの基本要素は、倍音ではなくノイズです。
サブトーンのアンブシャと奏法については、下あごを軽く手前に引き、下唇とリードとの接する面積を広くすることで、リードの振動部分を適度にミュートする、というやり方が一般的なようです。やりかたは色々あるとは思いますが、要はリードの振動にノイズ成分を付加してあげて、「プシュー!」というサブトーンを作り出すわけです。
サブトーンのノイズには、基音よりも低い周波数も含まれているので、その音色は輪郭の角が取れた、とても柔らかなものになります。ノイズ成分を目いっぱい増やせば、「ブフォー!」というような、スタン・ゲッツやスコット・ハミルトン等のトラディショナル系のジャズテナー奏者が良く使っている、ムーディーなサブトーンになります。
またアルトやソプラノでも、旋律をソフトに響かせたい時にサブトーンを使いますし、バリトンでは特有の「音圧感」を和らげるためにも使われます。サブトーンは決してテナーサックスの専売特許ではありません。
サブトーンをストレートトーンにエアノイズを加えたもの、と考えることで、サブトーンによる表現の幅が一気に広がります。
キンキンした音になりがちなアルトやソプラノの高音域で、ほんの少しのノイズのサブトーンで吹けば、サウンドからエッジが取れ、まろやかになります。狭い室内で聴衆との距離が近いとき、そこそこのサブトーンで吹けば、音量自身は落とさずに「小さく抑えられた音」に聴こえます。
ゲッツやハミルトン、ウェブスターのサブトーンが目盛り10のサブトーンとしたら、音のエッジを取るサブトーンは目盛り2、小さな音に聴かせるサブトーンは目盛り5くらいでしょうか。そう、サブトーンはノイズのコントロールの結果であり、優れた表現力を持つサックス奏者のサウンドの基本は、「自由自在なサブトーンのコントロール」とも言えるのです。
「サブトーンが出せた!」と歓喜した日から、「サブトーンのち密なコントロール」への、長くて険しい修行の道が始まるのです。がんばってください!
——————————————————————————————–
この記事へのコメントはありません。