多分、今一番渋い正統派のジャズテナーマンであるスコット・ハミルトンは、1954年9月12日、ロード・アイランド州プロビデンス生まれの66歳です。
幼い頃より父親のレコードコレクションを通してジャズに親しみ、5歳でドラム、6歳でピアノ、8歳でクラリネット、そして16歳のとき、デュークエリントン楽団の伝説のリードアルト、ジョニー・ホッジスに憧れてサックスを始めました。
1976年8月、22歳のときにニューヨークに移り、ミュージシャンとしての活動を本格化させました。当時のニューヨークでは、伝統的スタイルのジャズが終わりを告げ、新しいジャズシーンへと変貌しつつある時期でしたが、スコットは幸いにも、ロイ・エルドリッジ(Tp)、アニタ・オデイ(Vo)、イリノイ・ジャケー(Ts)、ヴィック・ディッケンソン(Tb)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Ds)、ベニー・グッドマン(Cl)等、多くの伝説のミュージシャン達と演奏する機会に恵まれ、伝統的なジャズのエッセンスを学ぶことが出来ました。
そしてフュージョンやジャズロック全盛期のジャズシーンにおいて、レスター・ヤングやベン・ウェブスターの流れをくむオーソドックスなスタイルが新鮮な響きととらえられ、一躍ジャズテナーサックス界の寵児となりました。
1980年代には、日本、スウェーデン、イギリス、パリと世界を股に掛けるツアーを敢行し、1990年代には居をロンドンに移し、現在ではイタリアを拠点に世界を渡り歩いています。
イギリスの著名な作家であり教育者、またジャズサックス奏者でもあるデイヴ・ジェリーは、「スコツト・ハミルトンのソロは、まるですばらしい会話そのものです。最初に彼のテナーの独特な声、サウンドに引き付けられ、そして縦横無尽な旋律の展開に翻弄され、最後には雄弁なジャズ言語によって納得させられるんです。」とスコットを評しています。
分かり易く言えば、「スコットは誰をもが聴きたいジャズを演奏してくれる」ということでしょうか。正統派なのに新しく、奔放なのに績密、豪快なのに柔らかい、そんなジャズテナーのプレーヤーです。
スコットはバラードの名手です。ベン・ウェブスターばりの深い響きをたたえたサウンドと、歌心に溢れた流れるようなフレーズで、聴き手をいっきに古き良き「あの時代」へと引き戻します。また速いテンポの曲では、ズート・シムズやアル・コーンの様に軽快で躍動感のあるフレーズで、聴衆を心からスイングさせてくれるのです。
スコットの楽器は1954年製のセルマーSuper Balanced Actionのテナーです。この年にはもうMark VIが発売されていますので、「最後のSBA」のひとつでしょう。伝説のジャズミュージシャン達との演奏で多くを学び、新しい伝統を作り出したスコット・ハミルトンが使う楽器として、まさにドンピシャな楽器なのではないでしょうか。
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