ほとんどのサックス奏者が、「リードはケーンっていう植物から作るんだ」と知っています。でも、実は「ケーン」という植物はありません。リードのうんちくを、ちょっと深く掘り下げてみましょう。
「ケーン」とは、茎が硬く木質化する、藤、竹、シュロ、サトウキビ、葦(アシ)などの木性草本の総称です。木管楽器に使用されるリードは、ケーンの中でも「アルンド・ドナックス(和名:西洋ダンチク)」という葦の仲間の、茎の硬くなった部分から作られます。
ケーン種は、日当たりのよい場所なら土質に関係なく旺盛に成育します。そのため世界中のあらゆる地域で近似種が見られますが、木管楽器のリードに使用するケーン、「アルンド・ドナックス」は、リードの品質維持のために特別な栽培方法で育てられており、それを「ミュージック・ケーン」と呼んでいます。
ミュージック・ケーンはフランス、アルゼンチン、スペインなど世界各地で栽培されていますが、高品質のリードのためには、湿度の低い温帯性の沿岸気候、太い茎の直径を得るための長くて暑い夏、茎の成長を即すのに充分な水、等々各種の条件があり、フランス南東部のヴァール地域で栽培されたケーンが、最高級品質のミュージック・ケーンと言われています。
刈り取って6フィートの長さにカットされたケーンを、2年以上かけて自然乾燥させ、十分に乾燥したところでリードの形に成型します。成型は各リードメーカー独自の形で高精度に加工されますが、番手の違いで異なる形に成型されるわけではありません。すべての材料を同じ形状に加工した後、熟練の職人による最後の検査において、1枚ずつコシの強さを測定し、そこで番手が決定します。
自然の材料を使用するリードですので、この製造工程自身は木管楽器が発明されたころからほとんど変化していません。
現代の技術は、リードが自然の材料から出来ているが故の、「耐久性の弱さ」をも克服しました。それが「人工リード」、「シンセ・リード」と呼ばれる、人工樹脂で作られたリードです。
特殊な強度性能の人工樹脂を成型したものや、ミュージック・ケーンの繊維構造をも工業的に再現した樹脂製リードも数社がリリースしています。
かつてはグラスファイバーを練り込んだ人工リードが多かったため、削って調整すると微細繊維が露出し、健康被害を派生させる危険があったため、「人工リードは削っちゃダメ」が常識でしたが、近年では「加工できる人工リード」も発売されています。
リードには、ケーンのU字カットのまわりの表皮部分だけをストレートラインで削った「ファイルド」と、U字カット部周囲の表皮を削らずに残す「アンファイルド」があります。
ファイルド・カットのリードは豊かな倍音が得られ、ハーモニーに深みを増すクリアな音色と音の立ちあがりが特長です。アンファイルド・カットは、芯と深みのあるまとまりの良いサウンドが特徴で、程良い抵抗感を持っています。
クラッシック系のサックス奏者はファイルド・カットを、ジャズ・ポップス系の奏者はアンファイルドを好む傾向があるようですが、こうあるべき、という訳ではありません。
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