唯一無二とも言える個性的なサウンドで、自己を表現する稀有な存在のジャズテナー奏者、竹内直(たけうちなお)は1955年東京の生まれです。
10歳の頃横浜に引っ越し、18歳で兄からサックスを譲り受け音楽にのめり込みました。明治大学に進学し、同大の名門ジャズ研で仲間との演奏を楽しんでいましたが、ジャズの巨匠ジョン・コルトレーンを聞いたことがきっかけでミュージシャンを志すようになりました。
自分にとって大学を卒業する意味はない、と1978年に大学を中退し、アルバイトで貯めたお金で単身ニューョークへ渡ります。現地でバイヤード・ランカスター(As)、スティーブ・グロスマン(Ts)等に師事し、音楽性とサックスの技術を磨きました。
帰国後は宮間利之&ニューハードなどで活動しますが、1987年に再びニューョークへ渡り、ストリートで演奏する傍ら、多くのニューョーク在住ジャズミュー ジシャンらと共演します。1989年に帰国した後、エルビン・ジョーンズ(Ds)のジャパニーズ・ジャズマシーンに参加し、フレディー・ハバード(Tp)らとともに、日本全国でツアーをおこなっています。
以降、自己のグループやソロ活動、ジャズサックス4人のアンサンブル『サキソフォビア』、山下洋輔(Pf)、五十嵐一生(Tp)など、多くのグループ、セッションで活躍しています。
竹内直のサックスサウンドは、いわゆる普通のジャズテナーの域を超えています。口腔内から発する独特なノイズや、喉や唇を使った個性的なイントネーションで、サックスに「しゃべらせ」ることに成功しています。あたかも人の会話や囁き、うめき、咆哮の様に、限りなく人間臭いサックスのサウンドがそこにあります。日本のテナー奏者には珍しく、バスクラリネットとフルートをも縦横に吹きこなします。
1998年から緑川英徳仏(As)、岡淳(Ts)、井上”JUJU”博之(Bs)とともに、リズム楽器レスのサックス4本だけのジャズサックスアンサンブル、『サキソフォビア』の活動を始め、「個性がぶつかり合うアンサンブル」で多くのファンの人気を集めています。サキソフォビアは、2002年に来日したビル・クリントン元アメリカ合衆国大統領の歓迎晩餐会で、メインステージを務めました。残念ながら竹内は 2020年7月にサキソフオビアを脱退しましたが、竹内のアンサンブルでの演奏は、『竹内直0ld & New Dream Jazz Orchestra』(旧マンデーナイトオーケストラ)のナインピースオーケストラで聞くことも出来ます。
竹内は多くの作品を録音しており、自己の名義で11枚のアルバム、サキソフォビアで7枚のアルバムをリリースしています。最近ではWeb配信の「Solo Live / Meditation Jazz」と銘打った、オンライン・ソロライブを頻繁におこなっています。
竹内の楽器は、テナーはアメリカンセルマーのMark VIにWoodStone Traditional Jazzのハンドメイド・ラバーマウスピース、Low Cのバスクラリネット(メーカー不詳)、Altus のフルート・ダモーレです。フルート・ダモーレとはB♭調のフルートで、19世紀を境にフルートの世界から一時的に消えた歴史を持っています。ダモーレ(d’amore) はイタリア語で愛。C調のコンサートフルートとは異なる甘美な音色を持ち、独特の柔らかさを愛の名のもとに表現します。
こんな個性的な楽器達を、竹内直がソロライブで朗々と吹きこなす姿は、一見の価値があります。
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