英語では「パッド」、フランス語で「タンポン」、日本語では「タンポ」と呼ばれる、サックスのトーンホールを塞ぐための部品です。何故日本語で「タンポ」と呼ばれるようになったかは不明だそうです。現代の日本では、「タンポ」と言われても、どんなものかを想像するのが難しいので、「パッド」と英語を使うのが分かり易いようです。
サックスのパッドは、基本的に台紙と呼ばれる丸い厚紙にクッション材となる圧縮フェルトを重ね、これを包み込みこむようになめし皮を張り、プラスチックや金属のレゾネーター(ブースター)と呼ばれる円盤状の板をその真ん中に張り付ける、といった形式で作られています。
そのクッション性によってトーンホールを隙間無く塞ぎ、水分を適度に吸収し、レゾレーターでトーンホールからの空気振動を制御する。こんなところがパッドの役割です。
サックスのパッドのメーカーは、イタリアのピゾーニ(L.Pizoni)、フランスのシャヌー(MARTIN-CHANU)、ヤマハ、そして中国などの木管楽器メーカー製のものにざっと分類できると思います。上級モデルに採用されることの多いピゾーニとシャヌーは、古くからセルマーのサックスに採用されています。現在のサックスメーカーのパッドの採用状況は、柳沢:シャヌー、セルマー:ピゾーニ、高級台湾メー カー:ピゾーニ、ヤマハ:自社製またはピゾーニ、となっているようです。
通常リペアマンは、パッド交換が必要な場合は、その楽器に使用されているパッドと同じ品質のもので交換するのが原則で、各社の多様なサイズのパッドを常に在庫しています。セットで3、4千円の安いパッドは皮の質があまり良くなく、短い使用で硬く硬化したり、破けてしまったりします。高級なものは丁寧になめした上質な皮を使用しているので、耐久性も良く、適度な柔らかさでトーンホールをしっかりと塞ぎます。
近年ではカンガルーの皮のパッドも人気があります。米国MusicMedic社のパッド「RooPad」は、最上のカンガルーレザーを特殊加工することで、軽量性と繊維の均一性を有し、非常に高い耐摩耗性と耐引裂き性を実現したと証っており、最近流行のパッドとなっています。
パッドの皮と同様、リゾネーターの材質や形状、取り付け方もサウンドに大きく変化を与えます。
材質はプラスチックなのか金属なのか。金属でもどんな合金か。形状はドーム型か、フラット型か。円盤に模様がプレスして有るか無いか。リベット留めかネジ留めか。等々、仕様は千差万別です。しかしそれによってサックスのサウンドが大きく影響を受けますので、こだわるサックス奏者は大勢います。
ジャズ向きの設計で有名なヤマハの82Zシリーズには、オリジナル仕様のメタルレゾネーターパッドを、プラスティックレゾネーターのパッドに交換する特注オプションを用意しています。サウンド全体の柔らかさが増し、音の艶が変わると好む奏者が少なくないようです。
パッドはカップに「シェラック」という熱溶解性の樹脂接着剤を使って接着しますが、その接着剤の量、塗り方、樹脂の成分、カップからの浮き具合等の違いでもサウンドに影響があるそうです。パッド、あなどれませんね。
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