黄昏れのマンハッタンの街角で、サックスケースを片手にたたずむサックス奏者。
ジャズ黄金時代のレコードジャケットや広告材料にしばしば使用されていた、ジャズサックスプレーヤーのポートレート写真のモチーフです。そんな写真では、プレーヤーの傍らに写るサックスケースは、使い込まれたラニオンブルースの本革製ソフトケースの場合が多かったようです。
電車移動が多かったマンハッタンのジャズサックスプレーヤー達は、もっぱら「軽くて、渋く格好良い」ラニオンブルースの本革製のソフトケースを好んだようです。合成樹脂を使ったパックケースが無かったこの時代、ソフトケースが主流だったのです。
ラニオンブルース(Reunion Blues:リユニオンブルースと発音されることもあります)は、今なお続く楽器用ソフトケースの老舗ブランドです。残念ながら近年では、防水性の高い丈夫なナイロン帆布がケースの主な素材になっており、本革の製品の製造はほとんど終了してしまっているようです。
本革のケースは使い込むほどに表面が変色し、風合いが出て来ます。また革もしなやかになり、独特の肌触りになってきます。ベテランのジャズサックス奏者には、使い古された本革のソフトケースが良く似合うようです。格好良いですよね。ラニオンのレザーケースは、まだ中古市場で取引されているようなので、入手は可能なようです。
また、長年ラニオンブルースで職人として働いていた、グレン・クロンカイト(Glenn Cronkhite)という革ケース職人兼プロドラマーが、自身のブランドでかつてのラニオンブルースのケースデザインに近しいものを製造・販売しています。検索してみてください。
「日本のラニオンブルース」と呼ばれた、合成皮革を使用した高品質なソフトケースメーカーもありました。「ヒジカタケース」というブランドで、多様な管楽器のソフトケースを1990年代前半頃まで製作していました。元々はアコーディオンのソフトケ ースの製作をしていましたが、管楽器奏者の依頼で、セミカスタムのソフトケースを安価で製造してくれていました。年配のサックスプレーヤーには懐かしい名前だと思います。
ラニオンブルースの本革ソフトケースは、スタイリッシュなだけでなく、機能的でもありました。サックスを立てた状態で持つための「サブウェイハンドル」と呼ばれる上部の取っ手も、ラニオンが早期に導入しました。
またテナーとソプラノ、アルトとソプラノを同時に収納するダブルケースでは、テナーノアルトの直管の上にソプラノを載せて収納するという、なんとも目からうろこなデザインを取り入れています。
ケースのバリエーションが数多く販売されている現在では、多くのソフトケースが選択できます。しかしパックケースでも超軽量なものが沢山出回っているので、楽器の保護能力の面で劣るソフトケースにはなかなか目が向かないようです。でも、条件さえクリアするなら、ソフトケース程軽いケースはありません。一考の価値はあると思います。
——————————————————————————————–
この記事へのコメントはありません。