全員が優れたジャズミュージシャンであることで有名な、ブランフォード兄弟の長男で、ジャズばかりでなく、幅広い音楽ジャンルで活躍するサックス奏者、ブランフォード・マルサリスは、1960年、アメリカのルイジアナ州にある人口8千人ほどの小さな町、ブローブリッジに生まれました。
父エリス・マルサリスは優秀な作曲家兼ピアニストとして知らており、幼少時から音楽環境に恵まれたブランフォードは、4歳からピアノ、小学校ではクラリネット、15歳でサクソフォーンを始め、バークリー音楽大学に進んだ後、1980年代前半にはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズに参加して、プロとしての活動を開始しました。
ブランフォードは当代ピカイチのサックス奏者ですが、弟のウィントン・マルサリスも知らぬ者のいない売れっ子のジャズトランぺッター、三男はトロンボーン奏者のデルフィーヨ・マルサリス、末っ子はドラム奏者のジェイソン・マルサリスという超一流のジャズ兄弟です。父でジャズ・ピアニストのエリス・マルサリスは、つい先日の2020年4月1日に、ルイジアナ州ニューオーリンズの病院で、新型コロナウイルス感染に伴う合併症により85歳で亡くなりました。
ブランフォードは1982年から1985年にかけて、弟ウィントン・マルサリスとクインテットを組み、また1985年にはスティングのバックバンドに加わっています。1986年には自分のグループを結成し、多くのアルバムを発表する傍ら、1994年にはジャズとリズム・アンド・ブルース、ヒップホップ、ロック等を融合したユニット「バックショット・ルフォンク」の活動も始めています。1980年代後半に正統派ジャズ復古のムーブメントが起きましたが、その中心にいたのがマルサリス一派です。
次男のウィントン・マルサリスが目覚ましい活躍をしていましたが、兄貴のブランフォードは弟とはちょっと距離を置き、正統派ジャズだけでなく、フュージョンもこなし、ロックにサイドマンとして参画していたり、でした。ひいてはソロでクラッシックのアルバムまでヒットさせてしまっています。
こんなブランフォードには、「幅広げ過ぎ」とか「いい加減」と感じる者も、また「柔軟性」とか「スーパーマルチタレント」と評価する者います。何にせよ、ブランフォードの参加した録音は、すべてそのジャンルにおいて最高の品質を保っていると言って良いでしょう。ジャンルを超えて聞き比べることをお勧めします。
そんな「超器用な」ブランフォードは楽器にも貪欲なようです。ソプラノは名器と呼ばれたヤマハの「YSS-62S」を再現した「YSS-82ZRS」。ネックがカーブドスタイルの一体型になっており、ストレートタイプではなかなか無い艶やかさと甘い響きを持っています。アルトはなんとキャノンボールのシルバープレートにバンドレンオプティマムA3です。テナーはセルマーヴィンテージのSuper Balanced Actionにリバイユラバーの8番であると最新の資料に記載されています。
とはいえ、1987年のライブ動画ではセルマーMark VIを吹いており、1999年のニューポート・ジャズフェスティバルではキヤノンボールのブラックラッカーモデルを、2009年のアルバム『Metamorphosen』の映像ではSBA、2019年の最新動画ではピッカピカのセルマーSA-80とおぼしきサックスを吹いています。「弘法、筆を選ばず」でしょうか。
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