1939年ごろに販売が開始された、セルマー・マグニトーン・リガチャー(Selmer Magni-tone Ligature) は80年もの時を経過した現在でも、人気のあるリガチャーの名器として、多くのサックスプレーヤーに愛されています。リガチャー特有の締めネジも無く、リードを押さえるプレートも見当たらない。何やら幾何学的な模様が打ち抜かれた、薄い金属の帯が輪っか状になっているだけのモノ。知らない人が見たら、たとえサックス奏者でもリガチャーとは気が付かないかもしれません。
セルマー・マグニトーン・リガチャーは1939年8月1日にシングルリードを使う木管楽器用のアクセサリーとして、米国特許商標庁にセルマー社によって特許登録がなされています。特許の有効期間は登録から20 年ですので、このリガチャーの特許はとっくの昔に切れています。ですので、現在ではこのリガチャーのリメイク版や改良版が、市場に多く出回っています。イタリアのボーガニ社からは「ボーガニ・フレクシトーン・リガチャー(Borgani Flexitone Ligature)」の名前で、ほぼマグニトーンの復刻版として販売されています。セルマー社のマグニトーン・リガチャーは真鍮製のみだったようですが、ボーガニ社のそれはニッケルシルバーとブロンズのバリエーションを備えています。またマグニトーン・リガチャー近似の構造に、共鳴用のネジを付加し、サウンドの味を調整できるようにしたものが、AIZENブランドから 「フリーダムリガチャー」の名で販売されています。
オリジナルのマグニトーン・リガチャーの銘品たる所以は、その構造と考え方にあります。「金属のベルトがゴムみたいに伸び縮みして、マウスピースとリードを締め付けてくれたら楽なんだけどなあ」 という発想です。昔ながらの「ひも系」のリガチャーは、リードを固定するためにぐるぐると紐をマウスピースに巻き付け、締め上げでいました。良く鳴らせるためには巻き方にはコツが要る面倒な作業でした。「金属ベルト系」のリガチャーはネジで簡単に固定することが出来ますが、ネジの閉め具合に注意が必要で、かつマウスピースの太さに対する余裕が少ないため、サックスの種類、マウスピースのサイズに応じて別の個体を用意する必要があります。そんな不満を解消したのがマグニトーン・リガチャーです。なんと金属の帯がゴムのように伸び縮みします。薄い金属帯の打ち抜き模様を良く観察すると、「O(オー)の字」が連続して繋がっているようなパターンです。この模様によって帯の長さが変わり、かつ弾力を持っているのです。 そして帯の端には沢山の溝が切られており、爪の付いたアジャスターに引っ掛ける溝を変えることで、リガチャーの帯の内径が変わります。塩梅の良い太さを設定し、リードの付いたマウスピースに、「ギユッ!」と押し込むと、ベルトの弾力でリードは見事に固定されます。リガチャー全体の重さや体積が小さいため、軽くて抵抗の少ない吹奏感が得易いようです。
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