サックス 演奏

サックス偉人伝:ソニー・スティット

*鬼才チャーリー・パーカーの陰で、どうにも割の合わない評価が付きまとったサックス奏者、ソニー・スティットことエドワード・スティット(Edward Stitt)は1924年ボストンに生まれました。スティットは活動時期を同じくし、先に早逝したチャーリー・パーカーと何かと比較され、「チャーリー・パーカーのそっくりさん」とまで言われました。当時スティットとパーカーは、それぞれの演奏スタイルや目指す音楽性が似通っていることを、互いに認め合っていたそうです。パーカーの衝撃的な演奏の後手に回り、それが真似だと言われても、天才パーカーの演奏を生半可な技術やセンスでは「真似る」ことなど出来ません。実際に録音を聴いてみれば、スティットはパーカーよりも平易で明るいフレーズと節回しで、聴き易く判り易く、しかも速いフレーズでも決して破綻することがありません。フレーズの美しさがそのまま指に伝わり、サックスからあふれ出してくるようです。パーカーがビ・バップという革新的なジャズのスタイルを創造したのに対し、スティットは後継者としてそのビ・バップを、自らの卓越したセンスと技術を持って追及した人と言えるでしょう。

 ソニー・スティットはジャズサックス奏者の中では非常に珍しい、「アルトとテナーの二刀流」でも有名です。テナーサックスを演奏する時は、スティットはパーカーの真似との非難を免れたからだとも言われていますが、1945年から4年間アルトアックス奏者として在籍したビリー・エクスタイン・ビッグバンドにおいて、テナーの巨人であるデクスター・ゴードンやジーン・アモンズと並んで、テナーサックスを頻繁に演奏していたこともあり、ソロ活動に移ってからも、表現したい音楽に応じてアルトとテナ ーを持ち替えていたようです。1959年録音の『Sits in with the Oscar Peterson Trio』では、当時大人気だったオスカー・ピーターソン・トリオをバックに従え、テナーとアルトを演奏しています。ハードバップが既に全盛となった当時、スティットのサックスは「ビ・バップ」なスタイルを踏襲しつつ、新たな魅力を加味して歌っています。バックに控えるのは天下のピーターソン・トリオで、歌物の伴奏をさせたら右に出る者はいないと言われるメンバーです。このような「最高のリズム隊」をバックに、アルバム全編に渡って、スティットは喜々としてテナーとアルトを吹きまくっています。アルトのスティットは輪郭のはっきりしたサウンドで、超速フレーズを次々と繰り出しますが、テナーのスティットはテナーらしい柔らかなサウンドで朗々と歌い上げています。
 スティットは晩年、首の悪性黒色腫を患い、1982年7月12日からの北海道をスタート地点とした日本縦断ツアーの開始直後、旭川で1曲演奏したのを最後に体調が悪化し、7月19日に急遠帰国しました。そしてスティットは帰国の三日後、7月22日にワシントンDCで亡くなりました。スティットを失ったツアーの後半は、ステージ中央に置かれた椅子に彼の愛器を飾った状態で、バンドメンバーのジェームス・ウィリアムス(pf)、ナット・リーヴス(b)、ヴィニー・ジョンソン(dr)のトリオのみでコンサートがおこなわれたそうです。

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