2020年の今、82歳でまだまだ現役のフリージャズの巨匠、アーチー・シェップは1937年フロリダに生まれました。セシル・テイラー、ジョン・コルトレーン、ホレス・パーランらとの共演で知られる、フリージャズ、アフリカンジャズの代表的なミュージシャンです。多くのジャズファンが、アーチー・シェップをフリースタイルでテナーサックスを吹きまくる、情念のサックス奏者とラベリングしていますが、実際のアーチーは非常に多彩で、かつ繊細でファンキーです。1971年のアッティカ刑務所暴動を題材にした楽曲「アッティカ・ブルース」を含むアルバム『アッティカ・ブルース』(1972年)は、音楽としては「ジャズファンク」と言っても良いでしよう。早くからセシル・テイラー、オーネット・コールマン、ドン・チェリー、ジョン・コルトレーン等の「スピリチュアル系ジャズ」の巨匠たちと演奏活動をしていたため、 彼の音楽の志向がそう見られがちですが、彼はジャズプレーヤーとしての長い経歴の中で、非常に多様な音楽性で活動を行っています。アーチーの大半の演奏は調性音楽(音程がしっかりとある音楽)の範時に入るものですし、理論に準じたコード進行や、リズムだってきちんと拍子があります。アーチーのセッティングはセルマーマークVIに、マウスピースはオットーリンクのスーパートーンマスターと、とてもオーソドックスなものです。しかし彼のサウンドは、オーソドックスとは言い難い非常に個性的な、周りの想像を超えるものとなっています。アーチーは非常に深くマウスピースを哩え、歌うようにまた唸るようにサックスから音を出します。どう吹けばこんな音がサックスから出るのかと、考え込んでしまうような音が、次から次と出てきます。そのサウンドはとても人間臭く、生命の呼吸を感じる繊細な歌声になっています。アーチーの演奏を音符にすれば、結構普通の譜面になるかもしれませんが、その譜面をアーチー以外の誰かが演奏しても、決してオリジナルようには聞こえません。アーチーの演奏の本質は、譜面には書き表せない部分、彼独自のサウンドの表現法にあるのです。
大学で演劇を学んだアーチーは、1962年に「Archie Shepp Bill Dixon Quartet」でアルバム・デビュ ーしました。ドン・チェリー、ジョン・チカイ、ドン・ムーア、J.C.モーゼスと前衛ジャズ集団「New York Contemporary Five」を結成し、短い活動期間ながら5枚もアルバムを残しています。その頃からフリー ジャズの精鋭として世界中に名を知られるようになります。70年代からョーロッパとアメリカを行き来しながら活動しています。2001年にリリースされたアルバム『Dejya Vu』では、その頃パリで暮しているアーチー・シェップがシャンソンの名曲に取り組んだバラードアルバムです。2004年、アーチーは自身のレーベル「Archie Ball」を発足させています。現在までその個性を失わないアーチーの演奏は、次第に年相応の穏やかで、枯れた味わいになって来ている感じがします。時系列的に色々なアルバムを聴くことで、初めてアーチー・シェップの個性の本質が分かると思います。
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