「クール・ジャズ」を代表するアルトサックス奏者で作・編曲家、リー・コニッツは、1927年10月13日シカゴで生まれました。11歳でクラリネットを始め、後にテナーサックス、最終的にはテナーからアルトに転向しました。なんと90歳を迎えた2017年に、ニュー・アルバム『Frescalalto』 を発表しています。リー・コニッツの音楽キャリアは、1945年にテディ・パウエルのバンドに参加することで始まりました。1946年、彼は盲目の天才ピアニストであり、先進的なジャズ理論の実践者、レニー・トリスタ ーノと出会い、ビバップをさらに上回る複雑な音楽様式に辿り着いた「トリスターノ様式」に傾倒します。その後、トリスターノに影響された多くのプレーヤーとともに「トリスターノ派」と呼ばれ、その音楽スタイルから「クール・ジャズ」と定義された、新しいジャズジャンルの代表プレーヤーとして認知されていきます。
クール・ジャズとは、ビバップの反動として1940年代後半に生まれたジャズのジャンルです。ビバップが持っていた緊張感や複雑性、熱狂的な即興演奏に対し、整然とした美しい旋律やフレーズ、機能的に整理されたサウンドなどが特徴です。ビバップが黒人プレーヤー主体のジャズであるのに対し、クール・ジャズは白人によるジャズと言われました。しかしクール・ジャズの原点はマイルス・デイヴィスのアルバム、『クールの誕生(Birth of the Cool)』(もちろん、コニッツも参加しています)とされており、黒人や白人という既成のジャズの価値観を超えた、音楽的な進化や人種的多様性を受け入れ、アンサンブルのアレンジや個性的な楽器編成、音楽構成をも重要視する、先進的なジャズのジャンルとして評価されています。
1950年代のクール期から現在まで、70年以上の長きに渡り活躍するリー・コニッツは、基本的には「セルマー好き」のようです。初期の頃よりセルマー・スーパー・バランスドアクションのアルトを愛用し、近年ではマークVIを使用している写真もあります。マウスピースはバンドレンのA55やJumbo Javaに、同じくバンドレンのリードを合わせたセッティングです。リー・コニッツは、同時代のサックス奏者が巨人チャーリー・パーカーから何かしらの影響を受けていたのに対して、その影響を殆ど受けず、ユニークといえるほど独自の方向を持っていた数少ないサックスプレーヤーです。彼の演奏はパー カーの情熱的な演奏スタイルとは異なり、不安定な音の混ざったフレーズを繰り返し、細かく短いリフが重なっていきます。音の跳躍が少なく、興奮の高みに一気に登り詰めることはあまりなく、階段を一歩ずつ上り下りするような音階を小川の流れのように続けます。サウンドはあくまでも柔らかなトーンでささやいたり、唸ったりします。まるでアルトサックスで言葉をつぶやいているかのようです。初めて聴いた時には退屈と感じるかもしれませんが、これが結構病みつきになります。不思議なのか当然なのか、リー・コニッツの影響を受けたサックス奏者というのは、あまり聞いたことがありません。まさに孤高の巨人、といったところでしょうか。
——————————————————————————————–
この記事へのコメントはありません。