サックスのマウスピースやサムレスト、サムフック等の素材として「ハードラバー」や「エボナイト」という材質が表記されていることがあります。馴染み深いこの単語ですが、何だか分かって使っていますか?
「ハードラバー」は基本的に「エボナイト」と同じものです。エボナイトは、簡単に言うと、「生ゴムに硫黄を加えて作られた硬質のゴム」です。英語での表記は、「ebonite」です。エボナイトを別の言葉で定義するならば、「ゴムの一種」となり、「輪ゴムの兄弟」です。エボナイトのことを硬質ゴムと呼ぶこともあるので、「ハードラバー=エボナイト」なのです。1852年にチャールズ・グッドイヤー氏によって発明されました。ちなみにグッドイヤー氏とタイヤメーカーのグッドイヤー社とは、直接の関係はありません。加硫ゴムの発明者に敬意を表して、社名をグッドイヤーにしたとのことです。エボナイトが最も古い合成樹脂と言われることがありますが、エボナイトは合成樹脂ではなく、「加硫(硫黄を添加した)ゴム」です。 天然ゴムに対し硫黄を15パーセント程度に混合すると、柔らかで弾カに富むゴム製品となり、タイヤ、 ホース、パッキンなどに使用されます。輪ゴムや軟質ゴムでは4~6パーセントくらいです。加硫度合いが30パーセント以上になると、弾性が少なく、黒く硬い光沢のある固まりとなり、この状態のゴムがエボナイトとなります。
エボナイトはおおむね、配合(原料の天然ゴム・硫黄・エボ粉を混ぜ)、練り(大型ローラーで練り上げ)、型詰め(マウスピースの型に充填し)、蒸釜加硫(蒸気で熱した窯で数十時間熱して硬化させ)、切削加工(型から抜いて精密に削り加工する)、の手順でマウスピースの素材となります。このようにして作られたエボナイトは、金属を遥かに超える抜群の耐久性があり、精密加工にも耐えられる形状安定性を持っています。プラスチックなどと違い、かなりの熱にも耐えることもできます。歪み難く、素材内部にひび割れなどを発生させず、高い耐摩耗性があること等で、サックスのマウスピースに最適の素材なのです。
保存状態が良ければ、100年近く前のエボナイト製マウスピースが、しっかりとした状態で今なお使用可能でしょう。しかしいくら頑丈なエボナイトでも、経年劣化しないわけではありません。エボナイトは金属よりも高い熱膨張率なので、温度変化の大きな状況下では収縮を繰り返し、形状や内部組成に変化が生じます。また、「エボ焼け」と言われる変色もあります。エボナイトの中の遊離硫黄が、空気中の水分と紫外線により変化し、表面の曇りと茶色い変色が発生します。大事なエボナイト製マウスピースは、 急激な温度変化を避け、ビニール袋と乾燥剤等で水分を遮断した状態で暗所に保管するのが良いでしょう。でも、最近のハードラバーマウスピースはフェノール系の樹脂材料製が多いので、せっかくの扱いが無駄になる場合もありますのでご注意を。
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