ジャズピアニストで作曲家の穐吉敏子(秋吉敏子)の夫として、また超絶技巧派テナーサックス/フルー ト奏者としても知られるルー・タバキンは、1940年、ペンシルベニア州フィラデルフィアに生まれました。12歳でフルートを学び始め、15歳でテナーサックスを始めます。タバキンは自分に影響を与えたサックス奏者として、アル・コーンやコールマン・ホーキンス等の典型的なジャズテナー奏者を挙げていますが、フルートに関してはフィラデルフィア管弦楽団の首席フルート奏者ウィリアム・キンケイド、ニューヨーク・フィルのジュリアス・ベイカー、パリ・オペラ座管弦楽団のジャン=ピエール・ランパルなどのクラシックフルート奏者をあげています。タバキンは、フィラデルフィア音楽院でフルートと作曲を学び、1962年に卒業、その後アメリカ陸軍音楽隊で3年間演奏しました。1966年ニューヨークに渡り、 メイナード・ファガーソン、キャブ・キャロウェイ、サド・ジョーンズ/メル・ルイスの各オーケストラに参加するとともに、エルヴィン・ジョーンズ、ドナルド・バード、ローランド・ハナなどとも共演しています。
タバキンは、1967年にクラーク・テリーのバンド在籍中に秋吉敏子に出会い、その後カルテットを結成し、1969年に結婚しました。その後1973年にロサンゼルスで秋吉敏子=ルー・タバキンビッグバンドを設立し、2003年にバンドが解散するまで、タバキンはバンドのメインソリストを務めました。このビッグバンドはデュークエリントン系のハードバップのサウンドをコンセプトに、秋吉の作・編曲の作品を主に演奏しており、その個性的なサウンドは、『孤軍』(1974年)、『ロング・イエロー・ロード』(1975 年)、『ロード・タイム』(1976年)、『マーチ・オブ・ザ・タッドポールズ』(1977年)等の数々の名アルバムを残しています。評論家のスコット・ヤノウは、タバキンのテナーサックスとフルートの演奏を「2 つの楽器でまったく異なる音楽的個性を表現する数少ないジャズミュージシャンであり、彼のハードバップスタイルテナーの力強い演奏と、繊細なフルート演奏のコンビネーションは唯一無二のものである。」 と称賛しています。タバキンは音楽雑誌ダウンビート誌の批評家投票で、最優秀ビッグバンド賞を5回、最優秀フルーティスト賞を3回受賞しています。
タバキンはその個性的な演奏の姿も有名です。顎を上げてマウスピースを角度をつけて咥え、撃速のフレーズとともに下あごを細かく動かします。ソロの興が乗ってくれば、ひざの屈伸で体を上下させ、時にはサックスを上下左右に振り動かします。たぶん「演奏中に最もアクションの多いテナー奏者」のひとりでしょう。タバキンのテナーは、コールマン・ホーキンスやソニー・ロリンズの流れを汲む豪放なテナ ーサウンドでありながら、非常に繊細で、且つ卓越したテクニックも有しています。セッティングは定番中の定番、ヴィンテージセルマーのMark VIテナーに、マウスピースはオットーリンクのスーパートトーンマスターです。6番の狭めのマウスピースに、リコ・ジャズセレクトの4番という堅めのリードを合わせているようです。
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