ヴィンテージサックスの超人気モデル、「アメセル」は、最近では100万円を優に超える値段で取引されています。初期のモデルなら製造後70年を経過しており、一見ただの屑鉄かもしれない 「アメセル」ですが、「アメセルとは何か?」をまとめておきましょう。
フランスのセルマー社で製造したサックスの部品をアメリカに輸出し、アメリカのセルマーUSA社で組み立てたサックスが所謂「アメセル」、アメリカン・セルマーです(それに対しフランス製造のものはフラセルと呼びます)。楽器に組み上げて輸出すると高額な税が課せられるため、節税のためにおこなわれた「ノックダウン」製造方式です。これに加え、アメリカ市場ではジャズ用のサックスに人気があったため、「ジャズ用のサックス」の味付けで組み立て製造をおこないました。セルマーサックスのち密さを持ち、当時人気だったアメリカンサックス、CONN(コーン)、KING(キング)、BUESCHER (ブッシャー)等の、野太く、おおらかなサウンドを目指したサックスですから、当時から非常に人気がありました。アメセルとして人気の機種は、SBA(スーパーバランスアクション)、Mark VI、Mark VIIがありますが、その生産時期によって楽器の個性が大きく異なっており、テナーではマイケルブレッカーが愛用したシリアル8万番台(1950年頃)、アルトではデヴィッド・サンボーンが使用している14万番台 (1967年頃)が高い評価を受け、ヴィンテージ市場でも超品薄です。ちなみにセルマー社では製造順にすべてのサックスにシリアルナンバー(通し番号)が振られており、シリアルでアメセルかフラセルかを見分けることはできません。
ジャズ向けに組み上げられたセルマーサックスですので、組み立て方にも特徴があります。全体に楽器の「鳴り」を向上させるよう、ラッカーの塗布が薄くなっています。また組み上げ後にラッカーを塗布しているので、各タンポの縁にラッカーが付着しています。U字管がはんだ付けされているのも特徴で、これを真似て現行サックスのU字管をはんだ付けしようとする方がいますが、管体内部から見ると管の「肉厚」がそこだけ増えるため、逆に鳴りを抑制してしまう場合もあるようです。ネックのオクターブキ ーのSの刻印に、フラセルはブルーの塗料が塗り込まれていますが、アメセルは無塗料(が多い)です。昔はフラセルのブルーの塗料を削り落とした、「なんちゃってアメセル」を使用するフラセルユーザーが沢山いました。ベルの彫刻もフラセルはベルフレアに向かって下から上につぼみが描かれているのに対し、アメセルはベルから横に花が咲いています。アメセルのキィアクションは基本的に低めにセッティングされ、速いパッセージでも楽なフィンガリングを可能にしています。フランスで製作したパーツをアメリカで組み上げていた為、初期調整された管本体とネックがバラバラにならないように、両方にシリアルナンバーが彫刻されており、「マッチングネック」と呼ばれています。この他、オクターブキィのベンドチューブやネックのリードパイプの内径拡張、U字管の中のバランサー(薄い板金)取り付け等々、熟練の技術者が一本一本の個性を考えながら、手作業で工夫に富んだ組み立て調整をおこなっていたため、アメセルは「個体差が最大のサックス」と言われています。このアメセル独特の組み立ては、1975年頃には終了したと言われています。
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