「遅く生まれ過ぎたテナーマン」と呼ばれる、ド渋なテナーサウンドで有名なジャズテナー の名手、ハリー・アレンは1966年、ワシントンDC生まれの52歳です。時代の流れに反して、ポール・ゴンザルヴェスやベン・ウェブスター、コールマン・ホーキンスといったスウィング寄りのスタイルに固執しているところがジャズファンの心を射止め、近年、頻繁に CDをリリースしています。1996年にリーダーアルバム、「ディア・オールド・ストックホルム」をリリースしましたが、当時30歳の童顔とも言えるアレンの顔と、彼の奏でるサウンドのイメージが一致せず、ファンたちは「本当にこいつが吹いとるんか?」とざわめきました…。というのは嘘ですが、とにかく渋いサウンドとフレーズ、また高度な演奏技術は、まさに「直球のジャズテナーサウンド」を聴かせてくれます。
ハリー・アレンは日本では特殊なデビューを果たしています。日本のレコード会社が彼のリーダー作を企図・制作、そして当時の名門ジャズ雑誌が同時にプッシュするという、日本のレコード会社、ジャズ雑誌が発掘し育てたテナー奏者という一面を持っています。よって日本ではある時期、一年に一枚以上のペースで、コンスタントにリーダー作をリリースしており、そんな彼の日本版リーダー作は、その多くが日本人ジャズファン好みの作品となっています。また来日公演も多く、毎年のように自己のグループを引き連れて、日本公演をおこなっていた時期もあります。彼が尊敬するテナーのレジェンド、スコット・ハミルトンとのツインテナーでのアルバムや、超絶技巧系ど渋ギタリスト、ジョン・ピザレリとの共演が多く、どれも秀逸で小粋な演奏を聴かせてくれます。
ハリー・アレンのセッティングは、セルマーのスーパー・バランス・アクション(SBA) にオットーリンク・トーンマスターのマウスピースを使っています。音もヴィンテージなので、やはりセッティングもヴィンテージですね。マークVIより古い時代のSBAのテナー は、最近ではヴィンテージ市場でも見つけることは稀です。見つけても200万円近い値段になっていることがあります。ため息しか出ませんね。ちなみに共演も多いテナー奏者スコット・ハミルトンが使っているマウスピースは、ハリー・アレンから「貰った」マスターリンク・フォースターとのことです。やはりハリー・アレンのような枯れてかつ艶のある繊細なサウンドは、こんなセッティングでしか出ないのでしょうか。あれ? SBA とトーンマスターの組み合わせは、なんとあのジョン・コルトレーンと同じですね。二人のサウンドは両極端のような違いがあります。やはりサックスのサウンドは、楽器やセッティングだけでなく、吹き手が作るものなのですね。良かった、良かった。
——————————————————————————————–
『イー楽器のお得情報』