サックスの値段は入門用で5、6万円、長く使い続けられる標準品で20万から40万円、憧れのプロモデルなら50万から80万円あたりというところでしょうか。すごい価格幅です。市場価格100万円を超えるセルマーマークVIなどの「ヴィンテージ名器」を使用している方からは、「入門用?あ、おもちゃのサックスね。」なんて中傷ぎみたコメントを聞くこともあります。安いサックスは、本当におもちゃなんでしょうか。
廉価版のサックスは、確かに欠点は少なくありません。サウンド的な観点で言えば、「響きが単調」、「音域で音色が変わる」、「音量が出ない」、「音程が取り難い」等。また、機械的な性能で言ったら、「調整が狂い易い」、「バネの反発力が不均一で運指がやり難い」、「曲がり易い」、「へこみ易い」、「錆び易い」なんて、まあ、キリがありません。これらがサックスの価格の差で出てしまうのですね。機械構造で出来ている工業製品の価格差の原因は、ほとんどの場合「人件費」です。よほどの大量生産のモノでない限り、どれだけ人間が手をかけて作っているかでコストは増減します。かたや、多くの経験豊かなリペアマンの方々が口を揃えて言うのが、「安いサックスでも、それなりに手を入れれば充分に上級者の戦力になるサックスに化けるよ」、ということです。基本的にサックスは、定期的な調整を必要とする繊細な楽器です。パッド(タンポ)も消耗品ですし、使えば使うだけサックスの可動部には「狂い」が生じてきます。名器だって調整しなければ「動作不良サックス」ならば、「おもちゃのサックス」と言われる廉価版サックスだって、手を掛ければ充分魅力的な楽器に生まれ変わるのです。
サックスのオーバーホールは安くて10万円、多少面倒な調整が入れば15万円くらいは必要です。しかしこれで、パッドの全交換、針バネの交換調整、キーバランス調整(パッドとトーンホールのすり合わせ、キータッチの調整、パッドの開き具合の調整、等)、可動部の磨き、オイル差し、等の作業がおこなわれます。ネックスクリューやベル支柱ネジなどを交換すると倍音が豊かになったりします。リペアマンによっては音質改善のための細かな裏技を持っている方々もいます。ネックのトーンホールを大きくしたり、ネックの先端に金属リングを溶接したり、U字管をはんだ接着したりと、色々なテクニックがあるようです。サムレストとサムフックを金属製に替えるのも、音質改善に有効です。マウスピースも「一流品」が良いですね。吹き易さも、音質も楽器付属のモノとは段違いです。おお、凄いですね。ここまですれば、かなり良い音の出る、良いサックスになっているはずです。しかしここまで手を掛けると、そこそこの中級サックスが買えるくらいのお金を費やしていますね。あっ!大事な事を忘れていました。吹き手が高い技術を持ったサックス上級者にならなければ、どんな良いサックスだって、ただの金属の塊ですね。
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