サックスという楽器の構造には、ある特徴的な部分があります。もともと指でトーンホール(音孔)を塞いで音程を作り出す「笛」が原点であるサックスは、楽器の大型化によって「指が届かなくなった音孔」に対し、「棒(シャフト)」を使って指の動きが音孔を塞ぐ「パッド」に連動するようにしました。指の届かない背中の中心部分を掻く、「孫の手」みたいなものですね。サックスのメカニズムには、その「孫の手」となるシャフトが何本も装着されています。
シャフトは「ポスト」と呼ばれる、サックス管体に建てられた支柱で両端を支えられ、他のメカニズムと連動して回転運動をします。30cmの長さのシャフトであれば、シャフトの片方の端を45度回転させれば、30cm離れたもう片方の端も45度回転します。テナーサックスのハイEキーのシャフトは、右手の人差し指の付け根でEキーを押すことで同じだけ回転し、50cm以上離れたネックジョイント近くのハイEのトーンホールを塞ぐパッドが、指の操作と連動して同じだけ開きます。バリトンサックスのハイEキーのシャフトの長さは、当然もっと長くなります。どうやっても指だけでは開け閉め出来ない音孔が、シャフトの働きで演奏者の意のままになるのです。これがサックスのシャフト連動機構です。
両端をポストで挟まれるシャフトは、サックス全体で26から30本程度使われています。非常に短いものから、ものすごく長いものまで、千差万別の長さのバリエーションがあります。ほとんどのシャフトは管体と同じ金属素材のパイプ状になっており、その内部に「芯金」という鋼材の軸が通っています。その芯金の両端をポストに取り付け、ピボットスクリューというネジで固定します。ピボットスクリューは先端が円錐形に尖っており、芯金の中心=シャフトの中心を、ポストのシャフト受けの中心にびったりと固定します。ねじ込みの具合でシャフトの押さえ具合を調整しますが、締め過ぎるとシャフトが回り難くなり、緩め過ぎるとシャフトの中心がブレた状態になり、芯金の摩耗やパッドカップ(パッドが付いたカップ状の部品)のガタ、連動メカの不具合につながります。このように「真っ直ぐ」であることが重要なシャフトですので、長いシャフトの中間部分には、シャフトがたわんだり、ブレたりしないように、「シャフトガイド」が取り付けられています。
サックスの管体を握ろうとすると、必然的に何本ものシャフトを握ってしまうことになります。シャフトに力が加わって曲がってしまい、その動作の伝達性が損なわれれば、サックスは動作不良を起こします。それゆえに、「サックスを持つときはベルを持ちましょう」というお勧めマナーとなるわけですが、決して実践向けな方法ではありません。どうしてもベルと管体の間に手を差し込んでサックスを持つのが便利で簡単です。このとき何本かのシャフトをつかんでしまうことになりますが、シャフトガイドの位置を気にしながらつかむ場所を考えれば、シャフトヘの不要な力は最低限で済ませることが出来ます。シャフトの重要性を理解すれば、それに見合った扱いが出来るようになると思います。
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『イー楽器のお得情報』