マウスピース放浪の旅はサックス奏者の性(さが)と言われていますが、最近では「リガチャー放浪記」も決して冗談では済まなくなっています。多種多様なリガチャーの中で、自分のセッティングにあったリガチャー、「うん、これだ!」というリガチャーにめぐり合うのは至難の業です。サックスのリガチャーの進化をちょっと振り返ってみましょう。
クラリネットの初期には、リガチャーは「紐」でした。紐でぐるぐる巻きにしてリードをマウスピースに固定するか、紐を編み込んだ「帯」でリードを締め付けていました。この「編み込み帯式リガチャー」はいまだに健在で、サックス用にもいくつものブランドから販売されています。紐の次の時代は金属のベルトです。真鍮の薄い板を帯状にしてマウスピースに巻き付け、端をまとめてネジで締めつけるという、現在でも最も一般的なリガチャーの標準形です。金属板を色々な模様で打ち抜くことで、デザイン性に加えて、リガチャーの重量や締め付ける力の平均化、共振特性等を、各メーカーはそれぞれ工夫を凝らしているようです。金属ベルトの次には「樹脂ベルト」が登場しました。マウスピースを樹脂のベルトで締め付けて、リードを固定するリガチャーの形式です。このタイプのリガチャーを、「もともと本革で出来ていたベルト式リガチャーが、合成樹脂ベルト製に進化した」と思っている方々がいるようですが、本革は「延び」の制御が難しいため、ほとんどのベルト型リガチャーで使用されていません。ベルト式リガチャーは、合成樹脂あっての方式です。数本の細い金属パイプを円形の針金つないだタイプのリガチャーも出てきました。それまでマウスピースに 「べったり」と密着していたリガチャーを、マウスピースから離すことでマウスピースの振動を阻害しないようにする、という発想のリガチャーです。この方式は、針金が人工繊維の紐に置き換えられたり、マウスピースに縦線で触れるパイプが無垢の特殊金属に変わったりと、様々な工夫がなされ各種メーカーから販売されています。
10年以上前に、それまで「リードを固定する」器具だったリガチャーに、「サウンドを調整するおもり」を付けた製品が発表されました。そのおもりは「バランサー」と呼ばれ、大きさや金属の質、形など、様々なバリエーションを持って、プレーヤーの好みやニーズに応えました。この頃にリガチャーの役割は、「サックス全体のサウンドつくりに積極的に貢献するもの」にはっきりと変わってきました。今では形を見ただけで、そのリガチャーの大体のサウンド傾向が把握できるので、リガチャーはサックスプレーヤーが自分のサウンドを調整するための、「心強いアクセサリー」になっています。ま、数千円から数万円までと、価格のバリエーションはあまり楽しくない場合もありますが…。
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