先日は、「新品のサックスは美しい」というところから、サックスのビジュアルの経年変化についてお話ししましたが、今回は同じ経年変化でも、「成長」や「熟成」等のポジティブな面について考えてみたいと思います。
ピッカピカの新品のサックス。見た目の美しさも素晴らしいですが、楽器としても、工業製品としても、生まれたての赤ちゃんに他なりません。新品のサックスを購入したあなたは、この子の将来を見据え、適切に育て、長い年月を付き合っていかねばなりません。楽器屋さんから新品のサックスを自宅に持ち帰ったとき、一番に気を付けてあげたいのが環境の変化です。そのサックスが製造された工場とあなたの自宅、また練習するスタジオでは、湿度や空気の環境条件がまるで違います。金属製品を扱う工場では、適温、適湿、清浄な空気で金属材料の劣化を防いでいます。それに比べ、日本の住環境は、過剰な湿度、局所的な高温、排気ガスの混じった空気など、赤ちゃんサックスには大変過酷な環境です。未来永劫とは言いません、せめて「楽器の慣らし期間」の数か月の間だけでも、高温や湿気を避け、排気ガスや硫黄系のガスが空気に混じっていそうな場所に、楽器を長時間さらさないようにしてください。この気遣いによって、サックスの金属表面に正しい「酸化被膜」が形成され、その後の腐食への耐性が作られます。具体的な方策としては、雨の日はなるべく持ち歩かない、とか、高温になる車のトランク内に長時間放置しない、とか、練習の後の水分は管体内部もパッド面もしっかり拭き取る、等々です。
新品サックスには「慣らし」が必要です。メカニズムの稼働部品の動きをスムースに馴染ませるため、最低音から最高音までの半音階をゆっくりと、力を入れずに繰り返しましょう。音の大きさはメゾフォルテです。管体全体が響くような、艶のある音が出るように吹くのが良いでしょう。新品の楽器は「動く事」、「音が出る事」に慣れていませんので、ゆっくりとこれらを覚え込ませる感覚です。同時にあなたもその楽器の癖や、苦手部分、良い部分などの「楽器の個性」を理解していきましょう。長い付き合いを維持するには、このスタートの時期は大切だと思います。
慣らし期間は基礎練習だけ、という訳ではありません。楽器が良いほうに成長するための練習を積極的に取り入れましょう、という程度です。慣らし期間は3か月から半年程度で充分です。慣らし期間に避けたいことは、「指に必要以上の力を入れてキーを押さえる」、「ネックや管体内部、パッド上の水分を放置する」、「細かいホコリが飛んでいるような、風のある日の野外練習」、「特定の音域だけを大きな音量で繰り返し演奏する」など等です。そして慣らしが終わったと思ったら、一回リペアマンにバランス調整を頼みましょう。これで新品の赤ちゃんサックスは、あなたの相棒としての「少年」程度に成長しています。もちろん、相棒としての「あなた」も成長しているはずです。
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