楽器を演奏して音楽を作り出すという事は、もちろん自分一人で楽しむことも出来ますが、多くの場合は人前でおこなう行為です。それ故に、「あがる」、「恥ずかしい」、「頭が真っ白」等という、決して嬉しくない精神状態といつも付き合っていかねばなりません。「どうやったらステージであがらずに演奏できるか」は楽器演奏者のほとんどが、一度は考えたことがあるでしょう。今日は「気持ちのコントロール」の方法を考えてみましよう。
気持ちはしばしば身体に影響を与えます。強張った気持ちは身体をも強張らせ、緊張した筋肉は身体の痛みや不調を生み出します。肩がこる、首筋が痛い、指が突っ張る、そんな身体の不調は往々にして、気持ちのバランスの不調が生み出す結果の場合が多いようです。そんなときに我々は心の中で「落ち着け、落ち着け」と唱えるのが常ですが、100回言ってもほとんどの場合落ち着くことはありません。今、そのとき、心は平静を失っているのですから、そんな「言葉」で落ち着きを取り戻すのはほぼ不可能です。しかし音楽は太古の昔から、長い長い歴史の中で進歩や変化を続ける文化です。こういった状況に陥るのを防ぐための数々のノウハウを、多くの先達たちが編み出してくれています。
演奏時の緊張を防ぐため、「気持ちを遠くに置く」という言葉があります。これだけでは意味が分からないですね。分かり易い説明は、「気持ちが近いとは?」から始まります。あなたがサックスで曲を演奏するとき、フレーズの音符をなぞる為に、指の動きに気持ちを集中させているとしましょう。「プレスの深さと、呼気のスピードを意識する」、「唇の調節で音程を維持する」、「タンギングを意識して音の切れを良くする」など等。これらはみんな、「気持ちが近い演奏」です。演奏中の意識の多くを、身体の各部分、もしくはそれらをコントロールすることに注いでいます。ほとんどが脳みそから1メートル以内の「近い部分」に意識が集中しています。もちろん身体の各部を動かさなければ、あなたのサックスから音は出てきませんが、これらの動きは「手段」であり、目的ではありません。サックスから生み出される美しいフレーズ、観客に届く豊かなサウンド、会場全体に満たされる音楽の幸福感。そんな「遠いもの」に意識を集中すると、身体がそれなりに自然に動いてくれるはずです。というか、そのために練習を積んでいるのです。
ライブや演奏会での「自分の目標」は、指を間違えずに動かすことや、音の頭を正しく切ることではありません、「良い音楽を演奏する」事です。意識を近くに置けば置くほど、身体は緊張して動きを鈍くします。意識を遠くに置けば、ゆったりとした気持ちで音楽の演奏そのものを楽しむことが出来るでしょう。そのためには、練習においては徹底的に気持ちを近くに置き、身体のコントロールを緻密に鍛錬する必要があります。練習では徹底的に細かいことを攻め、本番では「成るようにしか成らん!」と大きな目標に向けて演奏する。これが練習と本番の気持ちの使い分けです。また練習中に気持ちの位置を変える事も良い方法です。細かいフレーズの指の練習をしながら、フレーズの全体に目線を変えて同じ練習をするのも効果的です。
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