「音楽は瞬間の芸術だ!」、とよく言われます。私たちが奏でる音楽は、音になった瞬間から消え失せ、新しい音へ役割を渡していきます。何かあっても常に進み続ける、非情な「時間軸」が音楽の性であり、それ故に失敗が誤魔化せたりします(えへ)。音楽は時間にどの程度縛られているのでしょうか。
音楽作成ソフトは通常1ms(ミリ秒=1/1000秒)でのタイミングの制御が可能です。音のタイミングや延ばしの長さ、アタックカーブの立ち上がりの勾配等を、この1ミリ秒の精度で指定します。ということは、「人間は音楽の中で1/1000秒を感じることが出来る」ということです。もちろん出音のタイミングが1ミリ秒変わっても、ほとんどの人は差を感じないでしょう。ただこの一桁上、10ミリ秒はほとんどのひとが差を認識します。1/100秒あなたのサックスの音が皆より遅れたら、誰にでも分かる「遅れ」として聞こえます。例えば1分間に120の4分音符が入る(120BPM)アレグロのテンポでは、1拍は0.5秒。そこに入る16分音符の長さは0.125秒です。32分音符なら0.0625秒という「瞬間」です。陸上のトラック競技を見ていれば、この1/10秒がどんなに短い差であるかは感じられますよね。そんな、「シビアなタイミング」のなかで、我々は音楽をしているのです。
1/100秒のシビアなタイミングを感じることは出来ても、自分で意のままに操作できる事とは違います。我々、楽器奏者の時間のコントロールは基本的に「分数」です。先ほどのアレグロのテンポでは1拍の1/4の16分音符が0.125秒です。「クタクタ、クタクタ」で0.125秒をコントロールしています。ジャズのアップテンポなナンバーだったら200BPMは珍しくありません。そんな曲では0.15秒の8分音符を我々は吹いている訳です。また遅い曲、べったべたのバラードでもタイミングの取り方は同じです。60BPMなら1拍は1秒、8分音符は0.5秒となりますが、この遅い時間世界にも難しさがあるのが音楽の厳しさです。 1/100秒の揺れがあればそれがバレてしまうのですから、スローな曲ほどタイミングがシビアになります。バラードソロを採譜した楽譜には、32分音符やら7連譜などの見たこともない音符表現が出てきます。これはオリジナルのプレーヤーが、「そう吹こうと思って吹いた」のではなく、「プレーヤーのニュアンスを採譜したらそうなった」ということです。その楽譜通りに吹いても、オリジナルの演奏の雰囲気は多分でないでしょう。
ジャズのフレーズのタイミングには特徴的なお約束があります。スイングです。楽譜に8分音符で、「タ、タ、タ、タ」と書いてあってもそう吹いてはいけません。「たつた、たった」という感じの、「8分音符+8分音符=付点8分音符+16分音符」に近い雰囲気のタイミングで演奏します。しかしこれは「近い」だけであって、そのものではありません。ジャズのスイングのタイミングは多くのプレーヤーが解説していますが、最後は「ジャズらしくスイングしたフレーズ」というあいまいな言葉で終わってしまいます。しかしそこには1/1000秒のコントロールが存在します。微妙なタイミングのスイングも、フレーズごとにぶれてしまえば音楽になりません。いやあ、音楽って難しいですね。
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