サックスを演奏する皆さんですので、サックスは「移調楽器」ということはご存じだと思います。バリトンサックス、アルトサックス、ソプラニーノはE♭の楽器で、テナーサックス、ソプラノサックスはB♭です。前者は「ド」を吹くとミ♭の音が鳴り、後者はシ♭の音が出ます。しかしこの「サックス奏者の常識」はあくまで相対音階の話しであり、サックスの「低いほうのド」も「真ん中のド」も「高いド」も、みんな同じ「ド」として考えています。でもこの三つの音の間には「オクターブ」という差があります。今日はちょっと「実音」の話しをしてみましょう。
いきなり感はありますが、ギターの話しから始めさせてください。ギターは実は移調楽器です。「移高楽器」だという議論もあるのですが、ギター用の譜面で「下第一線(五線譜のすぐ下に追加する線)」の上の音符、ドをギターで弾くと、実はそのオクターブ下に記載すべき音の高さでドが出ています。ややこしい言い方になりますが、ギターはキーがCの移調楽器なのです。移調楽器の逆、実音楽器の代表はピアノです。ピアノで弾いた音が実音です。実音音名はアメリカではC4、C5とかの数字でオクターブの高さを表したりC´、C”などダッシュの数で表したりします。日本式ではハ、ニ、ホ(C、D、E)の文字の上下に点を付けたりします。中学校の音楽の授業で習った記憶がありませんか?各種のサックスでの実音の話をすると、非常にややこしくなるのでここでは止めておきますが、同じ実音Cでも色々な高さがあることを再認識してください。ちなみにアルトサックスで低いソを出すと、テナーサックスの真ん中のドと同じ高さの実音B♭が出ます。
何故こんなにややこしい実音の話しをするかというと、サックス奏者にはアンサンブルでの演奏において、ハーモニーの意識が不可欠だからです。「ド・ミ・ソ・シ♭」の和音はコード表記でC7です。しかし「ミ・ソ・シ♭・ド」もC7の展開形です。(機能コードの考え方からは別のコード名にもなりますが、ここは無視してください。)そして自分のパートがコードのどこの音を吹いており、実音のどの音を出しているかを意識することが、美しいハーモニーを生み出すためには不可欠なのです。実はここでまた追加のややこしい話が出てきます。平均律と純正律の話しです。平均律はオクターブを機械的に12等分した音階です。ハーモニーとは構成する各音の周波数比が整数比のときに美しく調和のとれた和音となりますが、平均律では各音はちょっとずつそれからずれてしまいます。純正律のドレミミファは、各音の周波数が整数倍になるように分割された音階です。ピアノで出すことは出来ませんが、音程の微調整が可能な管楽器では「まかせとけ!」な訳です。
終始難解なややこしい話ばかりでしたが、自分が吹いている音の場所と役割を意識すれば、そうでない場合より数段美しいハーモニーが作り出せる、ということが結論です。今日の話しの90パーセントは忘れて結構です。「ちょっとがんばれば、ハーモニーはもっと美しくできる!」ってことだけを覚えておいてください。
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