サックスはそのサウンドの作り方がとても微妙な楽器です。言い方を変えれば、それだけサウンドの表情の幅が豊かな楽器とも言えます。張りつめた細い糸のように緊張感を持った繊細な音。森の静寂の中の小鳥の歌のような優しい音。F1カーの咆嘩のような激しい音。みんなみんなサックスで表現することが出来ます。そんなサックスのサウンド作りに関して、近年のサックス指導者の方々の中に、「サックスのサウンド作りは引き算である」、という方々がいます。今日はその辺の中身を覗いてみましょう。
トランペット等の金管楽器は「リップリード」と言って、奏者の唇が「音の源」です。サックス等のシングルリード楽器は、実際に振動する薄い板が音源となっており、その音源からあらゆる音が生成されます。トランペットは自分の唇で音を生成しますが、サックスは振動するリードを適切に制御して、出したい音を出していくのです。ここが「トランペットのサウンドは足し算、サックスのサウンドは引き算」というところの所以です。マウスピースにリードをセットし、サックスに差し込み、深く軽くマウスピースを唾えて思い切り息を吹き込めば、多くの場合サックスは「ぶぎやあ~!」というような、なんとも言えないとてつもない音が出ます。これがサックスの音の「原資」です。この「ぶぎゃあな音」を唇の締め方や、喉のコントロール、楽器の操作等で美しい音に整えていくのです。音の不要な成分を無くして、必要な要素だけを残していく。これが引き算のサウンドです。
サウンドの引き算というのは、イメージだけの「表現」ではありません。低い「レ」の運指で、マウスピースを深く唾え、なるべく大きな音で沢山リードが振動するように吹いてみてください。「ぶぎやあ!」な音が出ます。そこから徐々にマウスピースの咥えを浅くしたり、上下の唇の締める力を強めたり弱めたり、息の量を調整したりしてください。このような練習で、「どこをどうすれば、どんな引き算が出来る」、つまり「どこをコントロールすれば、どの不要な音が減らせるか」が分かってきます。とはいえ、積極的に無くしたい音だけが都合良く無くなる訳ではありません。やり方が適切でなければ、無くしたくない倍音や音の太さも失われることもあります。しかし引き算の方法であれば、何故無くしてしまったかが明確に分かります。お手本通りのアンブシャでサックスを吹いて、頼りない細い音から始まったサウンドを、呼吸や唇の締め方、口の中の形、息の方向を変えたりと、「積み重ねの練習」でサウンドを改善しても、何故そこにたどり着いたかが分かり難いのです。積み重ねの練習を決して否定するわけではありませんが、たまに「引き算のやりかた」で自分の技術やサウンドを確認するのは悪いことではないと思います。ただの経験値による余談ですが、「ぶぎゃあ!」の音を出した時、良いサックスは楽器全体が、手が痺れるほどブルブルと共振します。そうでもない楽器はあまり振動しないようです。
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