サックスを構成する数多くの部品の中でも、重要度が相当高い部品がパッド(またの名を夕ンポ)でしょう。なにせこの部品がサックスの「穴」を塞いでくれないと、サックスは楽器としての音が出せません。そればかりか、トーンホールの淵とパッドの間に髪の毛一本ほどの隙間が有っても、サックスはまともに音を出してくれません。なんてシビアな部品なのでしょう。…ということで、今日はパッドの話しです。
ご存じのように、パッドはサックスのトーンホールカップの内部に接着されている、柔らかくて丸い円盤です。材質は動物のなめし革が多く、山羊、鹿、豚、カンガルー等の革が用いられます。最近では良質の合成皮革も出回るようになり、密閉性に加え、高い耐久性が付加された合成皮革が使われている場合もあるようですが、パッドは定期的な調整や交換が必要なこともあり、高級機種のサックスには未だに自然の動物皮革のパッドが使用されているようです。単純に空気のパッキン(漏れ止め)としての機能ばかりでなく、いかに素早くトーンホールを密閉するか、また開いている状態での表面の空気の流れ、押さえられ縮んだ状態からの形状復帰の能力等、パッドに求められる性能は複雑です。サックスのパッドは、熱で溶けるシェラックという接着剤でカップに取り付けます。これはパッドのカップ装着後に、カップに熱を加えながら、トーンホールの淵にパッドを馴染ませる作業をするためです。このためパッドには耐熱性も必要です。
パッドの仕事は実は「穴を塞ぐ」だけではありません。トーンホールから出てくる空気の流れを整える機能と、トーンホールから出てくる「音」を反射する機能があります。前者はトーンホールが開いた状態のときの「トーンホールの屋根」としての役割です。この屋根が一定の位置より低いとき、サックスの音程は低めになります。言い換えれば、パッドの開きの程度で音程が変わるということです。同様に音質にも影響を与えます。パッドの開き具合は、サックスの調整でリペアマンが苦労する非常に重要な部分です。音の反射には、パッドの中心に着けられた「反射板:レゾネーター(ブースターとも呼ばれます)」が活躍します。レソネーターには、材質が金属のもの、プラスチックのもの、また平坦なもの、湾曲したもの、溝が刻まれたもの等、多種多様なものがあります。サックスの音は、先端のベルからばかりでなく、開いているトーンホールからも「発射」されます。そのトーンホールからの音を反射してコントロールするのがレゾネーターです。音質ばかりでなく吹奏感にも影響します。一般的には、プラスチックレゾネーターは柔らかいヴィンテージ感のある音質、金属レゾネーターはエッジのあるシャープな音質を作り出すといわれています。いやあ、パッドって面倒臭い、いや、奥が深いですね。
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