どんな楽器でもそうですが、サックスという楽器も基本的な構え方は決まったものがあります。ストラップを楽器のリングに引っ掛けて楽器全体を首からぶら下げ、左手親指をサムレストに置き、右手親指をサムフックの下に入れて、両手の親指で楽器全体の位置をコントロールします。サックス奏者にとっては非常に当たり前のことなのですが、実はこの構え方に異を唱える方々も少なくありません。「サムフックなんていらないじゃん!」派です。
サムフックは文字通り、親指を引っ掛ける部品です。ストラップで吊り下げられたサックス本体を、ストラップリングの位置を支点として、このサムフックに置いた親指で、強制的に回転させることができます。従ってサックスの姿勢や位置は、親指をサムフックに掛けた右手の操作によってかなり変化させられます。テナーサックスの巨人、レスター・ヤングで有名な「サックスの横吹き」(笛のようにサックスを横に寝かせて吹く姿勢)もサムフックが有っての構えです。両足を屈めて、その間にサックスを入れて前後に振るという、ロックンロール・R&B系の吹き方も、サムフックという部品がないと難しいでしょう。でも、普通の吹き方では…。あれ?サムフックってそんなに大事ですか?
サムフックはサックスの姿勢を強制的に変えるためには大変重要です。しかし一般的な立奏(立っての演奏)と座奏(座っての演奏)では、あまり重要な役割を担っていないのではないでしょうか。アルトサックスとテナーサックスだけについて考えれば、サックスの姿勢コントロールの「点」として、ストラップリングとサムレスト、サムフックの3点に加えて 「太もも」という点も制御点として考えることができます。余分な力を抜いて自然体でサックスを構えたとき、サムフックに右手親指を引っ掛けなくても、充分に吹き易い位置にサックスを構えることができるのではないでしょうか?ね、出来てしまいます。それどころか、右手親指の位置が固定されないと、右手の各指でのキー操作がスムースかつスピーディ一におこなうことが出来る気もします。
観点は変わりますが、長時間の演奏でサムフックに引っ掛けた親指が痛くなる、というサック奏者の声をよく聞きます。これは完全に間違った構えによるものです。右手親指が痛くなるほど、親指でサックスを支える必要は皆無です。ですので、サムフックがフックであるのは、「引っ掛けられれば便利じゃない?」程度のものと考えても良いのではないでしょうか。実際にサムフックの「フック」部を伸ばしたり、切断してしまった「右手サムレスト」を使っているサックス奏者もいらっしゃるようです。フックの取り外しはしないにしても、右手親指の力と位置が、あるべき自然な姿になっているかどうか、自分の演奏姿勢をチェックしてみるのも良いのではないでしょうか?
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