マウスピースの咥え方、「アンブシャ」はサックス吹きでなくても、管楽器奏者にとって永遠の研究課題であり悩みの種です。
サックスではクラッシック系の王道アンブシャ、「シンリップ」、ジャズで多い「ファットリップ」、野太いサウンドのための「ダブルリップ」などがあります。
シンリップは上の前歯をマウスピースに立て、下の歯に唇を巻き込んでリードを締め付けます。音程のコントロールがやり易く、音の出だしのタイミングが遅れ難いアンブシャです。ジャズプレーヤーに多いファットリップは、上の歯はマウスピースに立てますが、下側は唇だけでリード面を支えます。リードが振動し易く、大きく太い音が出るアンブシャです。最後の「ダブルリップ」はマウスピースの上下を唇だけで支えるアンブシャです。マウスピースの振動すら開放するアンブシャで、太く、密度の濃いジャズやソウル向けのサウンドが得られます。上下の歯に問題が有っても、まったく歯を使わないアンブシャなので影響ありません。
テナーの巨匠、ジョン・コルトレーンは歯周病で歯がぼろぼろになっており、この「ダブルリップ奏法」でサックスを吹いていたそうです。固い歯を用いずに唇の筋肉だけで演奏をコントロールしますので、決して簡単な奏法ではありませんが、低音域では比較的簡単に吹ける奏法なので、有る音域だけをダブルリップで吹く奏者もいるようです。
アンブシャをこの三種だけで片づけるのは尚早です。この基本形に加え、マウスピースを咬む深さ、角度、口内の下の位置等、アンブシャとして考えることは沢山あります。
「アンブシャ」とは管楽器奏者の口の部分の形と演奏法の総称なのです。例えばファットリップの奏法で、下あごをほんの少し前に出すと、サブトーンが出し易いと言われています。個人差があるのでこれが「定番」ではないのですが、このような小さなアンブシャの工夫でサウンドや音のコントロールのし易さが大きく変わります。アルトのレジェンド、デビッド・サンボーンはマウスピースを真っ直ぐにではなく、斜めに口に挿しています。彼は幼少時の小児麻痺のリハビリでサックスを吹き始めたそうですが、彼の特殊なアンブシャは彼のサウンドには無くてはならないものになっています。
アンブシャについてもう一言。多くのサックス奏者が「安定したアンブシャ」を目指しますが、これははっきりと間違いと思ってください。確かに安定したアンブシャは重要ですが、それは安定したサウンドと音程、コントロールを実現するための手段です。これらが実現できていればアンブシャの安定性なんてどうでも良い事です。手段と目的を勘違いしないでくださいね。
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