多くの音楽の話題では、クラッシックとジャズをまったく正反対のもの、まるで北極と南極のように「両端」として較べられます。
確かに音楽のジャンルとして、目指しているものは全く違うのかもしれません。でも北極も南極も寒くて磁石が狂うように、実は似ている部分があるのではないでしょうか。サックスについてだけ考えても、同じ点も違う部分も数多くあります。クラッシックのサックス奏者がジャズに興味を持つように、またジャズのサックス奏者がクラッシックに興味を持つように、両者の違いと共通点を考えてみました。
まずは楽器です。クラッシックもジャズも、使う楽器のサックスの構造には何ら違いはありません。違うのはセッティングによる音質の選び方、楽器のコントロールの仕方です。クラッシックのサックスアンサンブルで新しい楽器が好まれるのに対して、ジャズではヴィンテージ楽器が好まれるというのも、「楽器の違い」と言えるかもしれません。しかしクラッシックサックスアンサンブルの奏者が音質の調和を追及して、新しい同モデルの楽器で揃えるのに対し、あのデュークエリントン楽団のサックスセクションは、音質を揃えるために全員がビッシャーのサックスに統一していたのは有名な話しです。正直な話し、現代のアマチュアビッグバンドは、各メンバーの出す「音質」に無頓着過ぎる傾向があります。楽器を揃えるのは難しいとしても、クラシックサックスを見習って、「音質の調和に気を使う」ことは必要だと思います。アンサンブルというものは、ジャズでもクラッシックでも、「つながりと心地良い和音」が肝です。両者に違いは無いと思います。
サックスは吹き方にも色々とスタイルがあり、クラッシックとジャズとでは全く違うと言われています。クラッシックサックスでは下唇を巻き込んだシンリップのアンブシャが基本とされ、ジャズサックスでは唇を緩く添えたルーズリップ、またはファットリップと呼ばれるアンブシャが推奨されます。
シンリップは音の細かいコントロールがし易い、ルーズリップは太い大きな音が出る、といった長所がありますが、逆にその長所が短所を作っています。ですので、経験を積み、技術を持ったサックスプレーヤーは、実はあまりアンブシャそのものには拘らないのです。
アンブシャはあくまで「形」の入り口であり、「目指す音とコントロール」という目的が最も重要です。シンリップのアンブシャでもルーズリップのようにリードに圧力をかけない吹き方も出来ますし、ルーズリップで咥え方の深さによっては、クラッシックの奏法の様な素早く切れ味の良いタンギングが可能になります。このように、一見正反対のクラッシックサックスとジャズサックスのアンブシャも、実はあまり変わらないものなのです。
少なくとも、「僕はジャズサックス奏者だからシンリップは不要」、また「クラッシックサックスにファットリップは向かない」、などと思い込んで、それらを避けて通るのはサックス奏者としてもったいないと思います。自分の出したい音を出す、吹きたい表現を実現するためには、どんな吹き方だって挑戦してみるべきだと思います。
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