サックス奏者にとって、マウスピースはひょっとしたら楽器そのものよりも大事かもしれません。
マウスピース次第でサウンドはがらりと変わるし、吹き易さも良いマウスピースと粗雑なマウスピースとでは雲泥の違いです。
長くサックスを吹いていれば、マウスピースの10個や20個は持っている、もしくは吹いたことがあるでしょう。
しかしマウスピースの価格は今やかなりのものです。もう製造していないヴィンテージマウスピースの10万円超えは当たり前だとしても、新品でも6万7万するマウスピースは稀ではありません。
どうしてマウスピースの価格ってこんなに高いのでしょう。
「何故、良いマウスピースは高価なのか」、また、「安価なマウスピースは、どうして安価なのか」について考えてみましょう。
マウスピースの価格を考えるとき、管楽器そのものの製造についても考えなくてはなりません。
経済産業省生産動態統計調査によると日本での平成25年の管楽器総生産数は「約12万本」となっています。
同じ統計で、冷蔵庫の生産台数が207万台ですので、管楽器は冷蔵庫の20分の1程度の生産量、と言えます。
12万台は管楽器全体ですので、サックスはその数十パーセント程度でしょう。
ね、楽器は凄く生産量そのものが少ないのです。
もしサックスが「一家に一台」が常識の世の中なら、大量生産によるコスト効果で、多分セルマーのサックスも2、3万円もしないのかもしれません。
ということで、「楽器関係製品は、量が少ないので安くはし難い」と言う大前提ができあがります。また同じように工業的に考えると、材料や加工方法も高値につながります。
マウスピースや楽器の材料は、おおむね高価なものが多く、また加工の精度も非常に高い事が望まれます。メタルマウスピースのメッキのコストも安くはありません。
金メッキも銀メッキも、貴金属ですので相場で大きく変化します。簡単に言ってしまうと、そのマウスピースが「良かろうが、悪かろうが」、目の前にあるだけで「高額」なコストがかかっているのです。
そして、高い価格のキモは、「人件費」です。高額なマウスピースは、特殊な訓練を受け、特殊な技術を持った職人が、特殊な方法と余人に替え難い優れた才能で、最終仕上げがなされています。
現代の最先端の加工機械、コンピュータ制御のNCフライスでは千分の1mm程度の精度で金属加工をすることができますが、マウスピースの仕上げの精度はそれでも甘いのです。優れた職人さんが「仕上げる」ことで、そのマウスピースには命が吹きこまれます。ですので、一日に何本かを仕上げることは大変な労力を使います。マウスピースの価格は、仕上げの手作業の精度の結果なのです。
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