最近のサックスケースは、サックス1本のみを収納する、いわゆる「シングルケース」が多いようです。持ち替え奏者用にソプラノとアルトの2本を入れられるダブルケースや、フルート用の長いポケットの付いた、フルートとテナーサックスのダブルケース等も人気が有るようです。今回は、そんな「マルチケース」についてお話しします。
スイングジャズ全盛期の昔のビッグバンドの「バンドマン」の皆さんの中で、サックス奏者にとってのケースの「定番」がありました。
サックスとクラリネットとフルートが収納できる「トリプルケース」です。このケースはテナーサックス用のものがほとんどで、通常の箱型テナーケースの小物収納部にクラリネットの収納場所、そしてフタの裏側にフルートをケースごと収納するクリップとくぼみが付いているものが一般的でした。
ヴィンテージのテナーサックスを購入すると、この便利なトリプルケースに出会う確率が高いです。
全体の大きさはサックス1本用のケースと全く変わりませんので、外から気づくことはありません。曲によってクラリネットやフルートヘの持ち替えが多く、演奏旅行の頻度が高かったサックス奏者には、必須の便利ケースだったようです。しかし、同じ「箱」に三種類の楽器を入れてしまうのですから、もちろん「重い」のは否めません。ケースの軽量化に伴い、トリプルケースヘのニーズは少なくなって来たようです。
現在のマルチケースは、ストレートソプラノサックスとの「ダブルケース」が主流のようです。箱型ケースが二段に分割されており、片方にアルトやテナー、もう片方にソプラノサックスを収納するダブルケース。しかも伸縮式の持ち手やキヤスターが付いたものもあります。また筒状のソプラノサックスケースを、アルトやテナーのハードケースの横にベルトで合体させるタイプのダブルケースもあります。変わり種では、テナーのソフトケースの深みを増やし、直線状の部分にストレートソプラノサックスを入れてしまう、という斬新なダブルケースもあります。テナーの主管部分とソプラノサックスの間には厚手のクッションが入っています。しかしカーブドソプラノと別のサックスとのダブルはさすがに見たことが有りません。ケース屋さんに頼めば出来ない事は無いとは思いますが…。
車での移動が主たる場合や、体格の良い「力持ちサックス奏者」にはマルチケースはお勧めできる便利なケースです。とにかく荷物が少なくなりますから。しかしその重さは決して侮れません。ゆえに現代のマルチケースは背負い型かキヤスター型がほとんどです。そして楽器の合計重量に耐えられるよう丈夫にしてあるので、ケース自身も重い事が多いようです。テナーとソプラノのダブルケースは、片手で10分も持ったら「手が抜けそうな」重さです。両手で別々に持つとか、片方を背中に背負うとか、「重さの分散」のほうが、結果的に楽ちんなのかもしれません。
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