サックスでは、「ド」の音を出すのはこの指、というように音に対しての運指がほぼひとつずつ決まっています。しかし管楽器の中で音に対する運指が決まっている楽器は、実はサックスとクラリネットくらいで、非常に珍しいのです。例えば金管楽器はすべて倍音を唇でコントロールします。トロンボーンでは7つのスライドポジションで、すべての音域の音を出します。またトランペットではたった三個のピストンバルブの組み合わせで、すべての音を出すことが出来ます。サックスとは「親戚」とも言えるフルートでも、オクターブや倍音のコントロールを、唇や息の強弱で「意識的に」出すような仕組みです。なんとフルートにはサックスのような「オクターブキー」は付いていないのです。多くの管楽器奏者は、ハイノート(高音域)が出る、出ないの話をするとき、「俺達の楽器にも、サックスみたいにオクターブキーが欲しいよなあ!」と愚痴ります。そんな、「管楽器奏者の切望の的」であるサックスにも、その特徴ゆえに必要な注意があるのです。
フルートの場合、ある音を出そうとしたら、出そうと準備しない限り出ません。低い「ラ」の指使いは、オクターブ上の「ラ」等の他の音と同じ指使いだからです。トランペットも、まったくピストンを押さえないで、「ド」「ソ」「ド」「ミ」「ソ」と色々な音が出せます。このように「出そうとして音を出す」楽器に対して、サックスは「音が出てしまう楽器」と言ってよいでしょう。しかし正確には、「狙った音に近い音が出る楽器」です。実は指で操作するメカニズムだけで完全に音程をコントロールできるわけではありません。押したら音が出る「ピアノ」とは全く違います。出る音は狙った音に近いのですが、やはり奏者による意識的なコントロールで、「出したい音」にする必要があります。チューニングメーターと一緒にすべての音の練習をすれば、このコントロールがいかに難しいかを実感する事が出来ます。
また、他の管楽器は奏者が皆、「倍音(ある音の整数倍の振動数の音。同じ長さに共鳴する音。)」を意識して演奏しています。それゆえに、「狂い易い音程」や「演奏し難い音の跳躍のフレーズ」等を熟知したうえで演奏しています。日常的にはあまりサックス奏者は意識していませんが、楽器を演奏する場合にはこの倍音を意識し、楽器の吹きこなし方をマスターすることが重要です。倍音はオーバートーンとも言われ、色々な音をひとつの運指で喉のコントロールで鳴らす練習として、サックスの奏法上達のために推奨されています。低い「シ♭」の指で色んな倍音を出す練習です。これをマスターすると音質や音程が抜群に改善されます。
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