かつての昭和の時代、テナーサックスが「ムード歌謡」の主役だった頃、「むせび泣くテナーサックスの音」という形容句が多用されました。ムードテナーの巨人、と呼ばれたサム・テイラーのテナーサウンドは、確かにむせび泣き、吼え、囁いていました。最も人間の声に近いと言われるテナーサックスは、歌うような表現がピッタリです。むせび泣き、囁き、吼えるためのテナーサックスのテクニックのヒントをお教えしましょう。
むせび泣くためにはやはり「サブトーン」の習得は必須です。基本中の基本のサックスの奏法のひとつですが、テナーサックスでは無くてはならないサウンドです。息の漏れたような、かすれたサウンドのサブトーンですが、本当に口から息が漏れているわけではないので注意してください。口から息が漏れている場合は、それはサブトーンではなく、単なる息漏れです。サウンドを聴くだけでは、「息の効率の悪い吹き方」に聞こえますが、効率良い息でサブトーンが吹けるように練習してください。そうすればフォルテッシモのサブトーンも夢ではありません。次のハッタリ、いや失礼、ニュアンスをだすためのテクニックは「ベント」です。いわゆる、「音をしゃくる」って奴です。口の締め具合を調整して、低音から高音へ(ベントアップ)、また高音から低音へ(ベントダウン)音を動かせばムード満点になります。上達すれば、演歌歌手の得意な「こぶし」を回すことも可能です。ま、必要なら、の話ですが。(汗
そして最後の秘密兵器(?)が「エアータンギング」です。舌をあまり使わず、息のスピードと圧力だけでタンギングのように音を切ります。これによって、「ぶわぁっ!」という音の出だし、また「あぅ~」というような音の締めを作ることができます。雰囲気やニュアンス、崩した歌い方を強調するジャズサックスの分野では、実はストレートなタンギングをする場合のほうがレアケースで、多くのフレーズはハーフタンギングやエアータンギングによって表現されます。余談ですが、ロックやR&Bのバリトンサックスでは、舌打ちをして音をパチンと弾き出す、「スラップ・タンギング」は最重要でテクニックです。テナーで「むせび泣く」ためには、息と腹筋、そして口の締め具合が肝、ってことがお分かりいただけたでしょうか?
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